見えない食品ロス追跡簿

食品製造・加工における隠れた食品ロス:原料から製品化までの盲点

Tags: 食品ロス, 食品製造, 食品加工, サプライチェーン, 品質管理, 副産物活用

はじめに:製造・加工段階における「見えない食品ロス」の重要性

食品ロス問題は、持続可能な社会の実現に向けた喫緊の課題として広く認識されています。一般的に消費段階での廃棄が注目されがちですが、食品サプライチェーン全体を見渡すと、その上流に位置する製造・加工段階においても、多大な食品ロスが発生しています。これらのロスの中には、表面化しにくく、その実態が追跡されにくい「隠れた食品ロス」が多く含まれています。本稿では、この食品製造・加工段階に焦点を当て、原料受け入れから製品化に至るまでの各工程で、どのようなメカロスがどのようなメカニズムで発生しているのか、その盲点を探ります。

原材料の品質基準と規格外品によるロス

食品製造において、原材料の選定は製品の品質を左右する重要なプロセスです。しかし、この初期段階から「隠れた食品ロス」は発生しています。

1. 厳格な品質基準と外観による選別

食品メーカーは、最終製品の一貫した品質を保証するため、原材料に対して非常に厳格な品質基準を設けています。例えば、野菜や果物では、色、形、サイズ、傷の有無といった外観基準が重要視されます。これは、消費者の期待に応えるとともに、加工工程の効率性を維持するためでもあります。しかし、これらの基準にわずかに満たないだけで、品質には問題がないにもかかわらず「規格外品」として扱われ、製造ラインに乗ることなく廃棄されるケースが多々あります。このような「規格外品」は、まだ食用に適するにもかかわらず、そのほとんどが流通の経路に乗ることなく、多くが飼料化や堆肥化、あるいは焼却処分されてしまうのが現状です。

2. 微生物基準と衛生管理

微生物検査の基準も、隠れた食品ロスを生む一因です。原材料の段階で基準値を超える微生物が検出された場合、全体のロットが使用不可となることがあります。これは食品の安全性を確保する上で不可欠な措置ですが、未然に防ぎ得たロスとして考慮すべきです。HACCP(危害分析重要管理点)のような衛生管理システムが導入されている工場では、原材料の受け入れ段階で厳格なチェックが行われ、不適合品は即座に排除されます。

加工工程における歩留まりロスと副産物の未活用

製造ラインに投入された原材料は、様々な加工工程を経て製品へと形を変えます。この加工の過程でも、多くの「隠れた食品ロス」が発生しています。

1. 加工歩留まりロス

食品加工においては、皮むき、種取り、トリミング、カット、整形など、様々な工程で食用部分が切り落とされます。例えば、野菜の葉物や根菜の端材、魚の骨や内臓、肉の脂肪分などがこれに当たります。これらの加工残渣は、製品の品質や見た目を向上させるために不可欠な工程から生じる副産物であり、多くの場合、食品廃棄物として処理されます。これらの中には、本来であれば食用可能であったり、別の用途で活用できる可能性を秘めていたりするものも少なくありません。歩留まり率の改善は、ロス削減の重要な視点となります。

2. 副産物(加工残渣)の未活用

食品製造工場から排出される副産物の量は膨大です。例えば、ジュース製造で生じる搾りかす、豆腐製造のおから、ビール製造の麦芽粕などが挙げられます。これらの副産物には、栄養価が高く、新たな食品原料や飼料、肥料などとして活用できるポテンシャルがあります。しかし、多くの場合、これらを有効活用するための技術、設備、市場が十分に整備されていないため、廃棄物として処理されているのが実態です。特に、水分含有量が多い副産物は、輸送コストや腐敗の問題から、再利用が難しいとされています。

製造プロセスと品質管理が生むロス

製品が形作られる製造プロセスにおいても、ロスは発生します。これらは、工場の効率性や品質管理の厳格さによって変動します。

1. 製造ラインのトラブルと不良品

機械の誤作動、温度や圧力の管理ミス、ラインの切り替え時の調整不足など、製造ラインにおける様々なトラブルが不良品の発生に繋がり、ロスを生み出します。また、試作品の製造や、生産計画の見込み違いによる過剰生産も、廃棄される製品を生む要因となります。これらのロスは、製造工程の最適化と効率化によって削減の余地があります。

2. 製品検査と賞味期限設定

最終製品の品質検査においても、外観不良や成分異常、異物混入などが確認された場合、そのロット全体が廃棄されることがあります。また、賞味期限の設定は、食品の安全性と品質維持のために極めて重要ですが、過度に短く設定された賞味期限が、まだ食用可能な製品の廃棄を招くケースもあります。これは食品ロスの議論において、しばしば「フード・デュープ(Food Date Labeling Optimization)」という観点から改善が求められる点です。

隠れた食品ロス削減への示唆

食品製造・加工段階における「隠れた食品ロス」の削減には、多角的なアプローチが求められます。

1. 技術革新とデータ活用

加工残渣の高付加価値化に向けた新たな食品加工技術(例:酵素処理、発酵、乾燥技術)の開発や、AIを活用した需要予測による過剰生産の抑制が有効です。また、各工程でのロス量を正確に計測し、データに基づいた改善計画を策定することが不可欠です。このようなデータは、企業のサステナビリティ報告書や、第三者機関の調査報告書などで開示されることがあります。

2. サプライチェーン全体での連携

原材料供給者、食品メーカー、流通業者、そして最終消費者までが連携し、サプライチェーン全体でロスの発生源を特定し、削減策を共有する「フードロス削減パートナーシップ」のような取り組みが重要です。例えば、規格外品の活用を目的とした新たな流通経路の構築や、副産物を原料とする別製品の共同開発などが考えられます。

3. 政策・規制と消費者の意識

政府や自治体による食品ロス削減目標の設定、企業への支援策、そして法規制の見直しも、この問題解決に寄与します。消費者の側にも、規格外品への理解促進や、副産物活用製品への需要喚起など、意識改革が求められます。

まとめ

食品製造・加工段階で発生する「隠れた食品ロス」は、その見えにくさゆえに、これまで十分に認識されてこなかった課題です。しかし、原材料の品質基準、加工工程での歩留まりロス、副産物の未活用、そして製造プロセスにおける不具合など、様々な盲点が存在しています。これらのロスを正確に把握し、技術的な改善、サプライチェーン全体での協力、そして政策と消費者の意識変革を組み合わせることで、食品製造・加工業界はより持続可能な姿へと進化できるでしょう。この複雑な課題への理解を深めることが、持続可能な食システムを構築するための第一歩となります。